2024年04月01日
大野敦司先生 海外留学体験記 Icahn School of Medicine at Mount Sinai(マウントサイナイ医科大学 ニューヨーク市)
留学先と留学期間
2015年に大学院を卒業後、2016年10月から2018年3月まで、ニューヨーク市のIcahn School of Medicine at Mount Sinai(マウントサイナイ医科大学)のYujin Hoshida先生の主催するラボにポスドクとして留学をさせて頂きました。
マウントサイナイ医科大学は、マンハッタンのアッパーイーストサイド地区のセントラルパークと5番街に面した好立地です。私は大学の直ぐ近くにアパートを借りておりましたので、ワンブロック先がセントラルパークでした。
留学先での仕事
「肝線維化」、「C型肝炎排除後」の2つのメインテーマを頂きました。ヒトの臨床検体を用いた網羅的遺伝子発現解析を基板として、予後予測、新規治療ターゲット探索、ドラッグリポジショニングによる治療の可能性の探索、などを行いました。メインテーマのうち前者は共同筆頭著者として論文化でき(Gastroenterology. 2022 Apr;162(4):1210-1225.)、後者は現在進行系で実験、解析を継続中です。また、上記の自分のテーマ以外にも、米国、日本、フランスの研究グループとの、様々なコラボレーションの仕事にも携わることができました。
留学してよかったこと
ありきたりですが、多様な価値観、文化的背景を持つ人達と一緒に仕事ができたことは、自分の財産になったと思います。自分が当たり前だと思っていることは、誰にとっても当たり前ではない、ということには普段の生活ではなかなか気づきにくいものです。また、やはり意欲的な学生、研究者が世界中から集まってくる環境に身を置くことで、自分のモチベーション向上にも繋がりました。Hoshida先生には研究のみならず、研究者としての多くの大切なことを教えて頂きました。プレゼンテーションは相手の立場に立って、どうしたら分かりやすく伝えることが出来るかを工夫する。もし伝わっていない場合、悪いのは相手ではなく、自分である。今まで慣例的に行われていたことを盲信しない。先輩がこうしてきたから、既報ではこの方法が一般的によく使われているから、という理由だけでなく、その方法が最適かどうかは自分で考えないといけない、等々。まだまだ実践できてはいませんが、時々これらの言葉を思い返しては、姿勢を正しております。
生活諸々
日々の生活はと言いますと、日本で医師として働いていた時とは大きく変わります。日本では外勤、検査、カンファ、書類作成、患者さんの診察、などなどマルチタスクを時間単位でこなす必要があり、研究をする人はその合間を縫って研究をしているのが殆どの医師の現状ではないでしょうか。留学中は、自分の研究にどっぷり浸かることができます。一時このような時間を持てるというのはなかなか得がたい経験だった様に思います。
研究以外の時間は基本的には自由です。私はまだ長男が幼稚園に行く前で、さらに、留学中に(マウントサイナイの大学病院で)娘が産まれましたので、あまり再々遠くに遊びにいくことは無かったのですが、それでもニューヨーク市内や、長期休暇には、ナイアガラの滝、フロリダのウォルト・ディズニー・ワールド、アーミッシュの人々の暮らすペンシルベニア州ランカスター等々を観光することが出来ましたし、学会に併せて、家族とともにワシントンDCやボストンに訪れることが出来ました。あまり楽しいことばかりを書くと何をしに行っていたのだと怒られそうですが、スポーツ観戦や音楽鑑賞、美術館めぐりも醍醐味の一つです。因みに、私はMLB(野球)、MLS(野球)、NBA(バスケットボール)、NHL(アイスホッケー)を観戦しましたが、私の観戦した試合は全てホームチームが負けてしまいました(ある意味すごい確率です)。
留学を考えている人へ
事前準備として英語の勉強と貯金はできるかぎりやっておくことをお勧めします。留学先にもよるかもしれませんが、発音はあまり気にしなくてもよいと思います。特に大学となると、世界中から人が集まっており、ネイティブではない人がネイティブの発音でないことは気にならないようです。それよりも現地の人が話すスピードを聞き取るリスニングと語彙力が重要だと感じました。留学して最初にテレビやインターネット等々の契約をすることになると思いますが、これらは全てネットではなく電話でした(少なくとも2016年当時は)。私は英語があまり得意ではないので、よく分からないまま適当に答えていたら少し高めのプランで契約してしまいました。
最近では全体的に留学を希望する若い人達が減ってきているという話も聞きます。そもそも行きたくないという方にはお勧めしませんが、行ってみたい気持ちもあるけれども不安もあり、なかなか踏み切れない、という方は是非思い切って留学しましょう!