上部消化管内視鏡検査
上部消化管内視鏡検査とは、咽頭、食道、胃、十二指腸を対象として、内視鏡を体内に挿入し直接観察して疾患を診断するとともに病態を把握する検査です。通常内視鏡検査と色素を撒くことにより病変を分かりやすくする色素内視鏡検査があります。
色素内視鏡検査には色素液の陥凹面へのたまり現象を応用して凹凸を強調させるコントラスト法(インジゴカルミンなど)や色素と粘膜の分泌物や細胞成分との特異反応を利用する反応法(ヨード、酢酸、クリスタルバイオレットなど)があります。食道疾患ではヨードが、胃疾患ではインジゴカルミンや酢酸がよく使われます。
また、光の波長特性を利用して拡大観察を行うことにより診断を行うこともあります。
病変の一部を採取して顕微鏡で詳しく診断する生検組織検査も同時に行います。
狭帯域光拡大内視鏡観察を用いた早期胃癌の診断
通常光観察では認識が困難な小さな早期胃癌でも狭帯域光拡大内視鏡観察を用いることで胃癌と診断することが容易に可能となりました。
超音波内視鏡検査
専用のプローベを用いて胃癌の深さや粘膜の下に存在する腫瘍の診断に用います。
早期胃癌に対する超音波内視鏡検査画像病理像との対比
胃粘膜下腫瘍に対する超音波内視鏡検査画像
検査実績
小腸内視鏡検査
小腸は十二指腸、空腸、回腸で構成される全長約6mにも及ぶ長大な臓器です。空腸、回腸は通常の上部消化管内視鏡、大腸内視鏡で到達が困難であり、長らく「暗黒の臓器」と呼称されてきました。しかし、近年ではカプセル内視鏡とバルーン内視鏡の普及に伴い、小腸の観察が容易となってきました。
当院ではカプセル内視鏡、シングルバルーン内視鏡およびダブルバルーン内視鏡を備えており、小腸疾患診療にも尽力しています。それぞれ利点、欠点が存在するため、患者さんの状態を勘案しながらどの検査を行うかを決定します。
ダブルバルーン内視鏡検査
ダブルバルーン内視鏡はスコープ先端にバルーンが装着できる内視鏡本体と、同じく先端にバルーンの付いたオーバーチューブから構成されています。バルーンを交互に拡張させることにより腸管を固定し、小腸挿入時の問題である過伸長を防ぎ、小腸を短縮しながらの挿入が可能となります。ダブルバルーン内視鏡は小腸のみならず、通常の大腸内視鏡で盲腸まで到達困難な症例に対する大腸内視鏡や、術後再建腸管に対するERCPにも活用されます。
ダブルバルーン内視鏡で撮影された内視鏡画像
小腸カプセル内視鏡検査
カプセル内視鏡検査は、カプセル型の内視鏡を嚥下するだけで小腸を観察することが可能な内視鏡です。現在、小腸疾患の検査における第一選択とされ、世界中で広く使用されています。体外に装着したレコーダーが、嚥下したカプセル内視鏡の撮影した画像データを受診します。データの送受信に伴い電磁波が発生するため、ペースメーカーや植え込み型除細動器が留置された症例には施行できません。検査時間はおよそ8時間で、検査の間は日常動作が可能です。
小腸カプセル内視鏡で使用する機材
小腸カプセル内視鏡で撮影された内視鏡画像
検査実績
大腸内視鏡検査
大腸内視鏡検査とは、結腸、直腸を対象として(時に回腸末端部も)、内視鏡を体内に挿入し観察して疾患を診断するとともに病態を把握する検査です。通常内視鏡検査と色素を撒くことにより病変を分かりやすくする色素内視鏡検査、ズーム式拡大内視鏡を用いて表面構造を詳細に観察する拡大内視鏡検査があります。
大腸内視鏡検査
大腸で行う色素内視鏡検査では、色素液の凹面へのたまり現象を応用して凹凸を強調させるコントラスト法 (インジゴカルミンなど) や粘膜の分泌物や細胞成分との特異反応を利用する反応法 (クリスタルバイオレットなど) がよく行われます。
拡大内視鏡検査は色素撒布後、あるいは光の波長特性などを用いた観察により、大腸腫瘍の表面微細構造を拡大し、詳細な観察により腫瘍の性質や深達度、範囲を正確に診断する検査法です。現在は通常の大腸内視鏡に組み込まれており簡便に行えるようになっています。 また、病変の一部を採取して顕微鏡で詳しく診断する生検組織検査も同時に行います。
側方発育型大腸腫瘍 (laterally spreading tumor ; LST) とは、肉眼的に側方への腫瘍進展を特徴とする径10mm以上の病変です。LSTは顆粒型 (granular type ; LST-G) と非顆粒型 (non-granular type ; LST-NG) に大別されます。その肉眼的分類はインジゴカルミンを散布して判定します。
超音波内視鏡検査
超音波内視鏡検査は、生体内において病変の垂直断面像を直接描出する検査法で病理のルーペ像に相当する画像を得ることが可能な検査です。癌の深達度やリンパ節転移、粘膜下腫瘍や壁外圧排の診断が可能です。
大腸カプセル内視鏡検査
大腸カプセル内視鏡検査は、2014年1月から大腸内視鏡検査が困難な症例に対し使用可能であり、カプセル型の内視鏡を飲み込むだけで大腸内を自動で撮影しながら先進していきます。通常スコープを用いた大腸内視鏡内視鏡と比較し、送気の必要がなく、疼痛も少なく、羞恥心、恐怖感といった心理的な負担も軽減されることが知られています。2020年4月には、適応疾患がさらに拡大され、幅広く使用可能となっています。近年大腸カプセル内視鏡検査の前処置レジメンも工夫され、腸管洗浄度や時間内のカプセル排泄率も向上しつつあり、大腸腫瘍の検出のみならず、潰瘍性大腸炎の病勢評価にも有用であることが報告されています。
大腸カプセル内視鏡に使用する機材
大腸カプセルで撮影された内視鏡画像
消化管X線造影検査
消化管X線造影検査とは通常はバリウムで造影を行い、透視を行うと同時にX線撮影をして、病変の部位、大きさ、範囲などを診断する検査です。主に食道X線造影検査、胃X線造影検査、小腸X線造影検査、注腸X線造影検査を行っています。その他にも低緊張性十二指腸造影検査なども行っています。
食道X線造影検査
食道X線造影検査ではバリウムを口から直接飲んでもらったり、鼻から挿入した細いチューブよりバリウムと空気を注入して造影像のX線撮影を行います。
胃X線造影検査
胃X線造影検査ではバリウムと発疱剤を口から直接飲んでもらったり、鼻から挿入した細いチューブよりバリウムと空気を注入して造影像のX線撮影を行います。胃の形の異常、胃の辺縁の変化がわかる充盈(じゅうえい)法、バリウムと空気のコントラストの差により粘膜面と壁の変化を表した二重造影法、粘膜面の凹凸や肥厚性変化を表す圧迫法があります。これらの方法を組み合わせて病変の診断を行っています。
小腸X線造影検査
小腸X線造影検査では、鼻から挿入した細いチューブよりバリウムと空気を注入して造影像のX線撮影を行います。
大腸X線造影検査
注腸X線造影検査では肛門から挿入したバルーン付きのチューブよりバリウムと空気を注入して造影像のX線撮影を行います。胃X線造影検査同様、充盈法、二重造影、圧迫法を組み合わせて病変の診断を行います。
消化管内視鏡治療
消化管腫瘍に対する内視鏡治療には様々な種類があります。病変の肉眼型、大きさ、部位などに応じて、最も適した治療法を選択します。
1.ポリペクトミー (Polypectomy)
スネアで絞扼し、高周波電流でポリープを切除する方法です。胃・小腸・大腸における有茎性、亜有茎性ポリープが良い適応です。
孤在性小腸ポリープに対してポリペクトミーを行なった症例
2. 内視鏡的粘膜切除術 (endoscopic mucosal resection: EMR)
最もよく用いられる内視鏡治療法です。生理食塩水やグリセオールを粘膜下層 (腫瘍の下と周囲) に注入して人工的隆起を形成し、腫瘍をスネアで切除します。全消化管 (食道・胃・小腸・大腸) における癌や平坦な病変がよい適応です。
3.浸水下内視鏡的粘膜切除術 (underwater endoscopic mucosal resection: UEMR)
消化管の管腔内を水で満たした状態で粘膜下局注を行わずに病変をスネアで絞扼し、通電切除する方法です。消化管内腔を水で満たすと、粘膜・粘膜下層が固有筋層から管腔内に浮かぶ様に突出し、スネアによる絞扼が容易となります。当科では十二指腸腫瘍に対して積極的に行なっています。
4. 小腸ポリープに対するクリップ留置による阻血治療
小腸ポリープに対する内視鏡的切除には合併症として出血や腸管穿孔が報告されており、近年では通電して切除を行うのではなく、ポリープ根部にクリップを行い、機会的に阻血を行うことで、ポリープを自然脱落させる方法も報告されています。この方法では出血や穿孔といった合併症がほとんどおきません。ただし癌合併が疑われるようなポリープに対して行うと組織学的な診断ができないという難点があります。
Peutz-Jeghers 症候群の1例
5. 結紮用デバイスを用いた内視鏡的粘膜下層切除術 (endoscopic submucosal resection with ligation device: ESMR-L)
神経内分泌腫瘍 (neuroendocrine tumor: NET) は腫瘍細胞が粘膜深層より発生し、粘膜筋板を越えて粘膜下層に達して発育するため、EMRでは深部断端陽性となる高くなることが知られています.そのため当科では下部直腸に発生する1cm未満のNETに対して、 食道静脈瘤治療用あるいは大腸憩室治療用のligation deviceを用いたESMR-Lを治療法として選択しています。
6.内視鏡的粘膜下層剥離術 (endoscopic submucosal dissection: ESD)
早期の消化管癌に対する治療法として、全国的に普及し保険収載されている治療法です。ESD用に開発された各種デバイスを用いて、大きな病変でも確実に一括切除できる手技です。まず、病変周囲にマーキングを置いたのち、粘膜下層にヒアルロン酸ナトリウム等を局注し病変を挙上させます。次にマーキングの外側の粘膜を切開し、粘膜下層を剥離して病変を切除します。ESD術中に出血を来したり、露出血管を認めた場合には、適宜止血鉗子を用いて凝固止血処置を行い、穿孔を来した場合にはクリップによる縫縮を行います。
食道癌に対するESD
検査実績
胃癌に対するESD
(1) 糸付きクリップを用いた胃ESD
(2) ハサミ型ナイフを用いた胃ESD
検査実績
大腸癌に対するESD
検査実績
7.内視鏡的咽喉頭手術 (endoscopic larygopharyngeal surgery: ELPS)
咽喉頭領域における鏡視下手術です。喉頭展開を行って経口的に鉗子を挿入し、内視鏡補助下に上皮下層剥離を施行します。当科では当院耳鼻科と定期的に治療適応病変のカンファレンスを行い、合同で手術を行なっています。
8. 消化管拡張術
消化管狭窄は内視鏡治療後の瘢痕狭窄、外科手術後の吻合部狭窄、クローン病によるものなど原因は様々です。当院では内視鏡的バルーン拡張術、Radical incision and cutting (RIC) などを行っています。
小腸狭窄に対する内視鏡的バルーン拡張術 (Endoscopic balloon dilation: EBD)
クローン病に伴う小腸狭窄症例
悪性リンパ腫化学療法後の瘢痕性狭窄に対し、キャストフードを用いた拡張例
9. 内視鏡的消化管止血術
上部消化管病変に対する内視鏡的止血術
食道小腸吻合部に生じたDieulafoy潰瘍に対する熱凝固止血
胃粘膜下層内の穿通枝に対する機械的止血
小腸病変に対する内視鏡的止血術
小腸angioectasiaからの出血に対する内視鏡治療
大腸病変に対する内視鏡的止血術
大腸憩室出血対するバンド結紮術 (Endoscopic Band Ligation:EBL)
直腸潰瘍に対してポリグリコール酸シートを固定した症例
10. 消化管穿孔に対する内視鏡治療・穿孔予防縫縮
ESDなどの内視鏡治療時に、止むを得ず消化管壁に穴があくことがあります。その際はクリップなどで穿孔部を縫縮します。
また潰瘍底が薄い場合、補強のために縫縮を行うこともあります。
胃ESD後遅発性穿孔に対してポリグリコール酸シートを充填した症例
胃ESD後潰瘍に対して留置スネアを用いてを縫縮した症例
大腸ESD時の穿孔に対してクリップにて縫縮した症例
11. 内視鏡的消化管異物除去術
乾電池をスネアにて除去した症例
魚骨を把持鉗子にて除去した症例
消化管腫瘍の化学療法
近年のがん治療の進歩は目覚ましく、手術で切除できない進行がんに対して、化学療法(抗がん剤治療)、免疫療法、放射線療法を適切に組み合わせることによって、生活のクオリティを保った長期生存が可能なケースが増えています。
当科では、食道癌、胃癌、十二指腸癌、小腸癌、大腸癌などに対して、多数の消化器内科専門医、がん薬物療法専門医、外科医、放射線治療医が緊密に連携し、最善の治療法を提供できるよう、ケースごとにディスカッションしています。
早期からゲノム医療 (がん遺伝子パネル検査) を開始し、治験を含めた治療選択肢が増えるように工夫しています。また国内の大規模臨床試験グループに所属し、最新の臨床試験に参加できる機会を増やしています。がんを減らす積極治療が難しくなる時期には、緩和ケアも重要な医療の内容となります。院内緩和ケアチーム、連携病院あるいは在宅かかりつけ医との頻回にやりとりし、切れ目のない安心できる医療を提供できるように努めています。
食道癌
広汎なリンパ節転移を有する切除不能食道癌で、食物の通過障害がありました。導入化学療法ののち、化学放射線療法を行いました.病変は消失し、症状は改善しています。
胃癌
多発肝転移を有するステージ4の胃癌で、病変からの出血のため高度貧血を生じていました。
1年6ヶ月の化学療法ののち、免疫療法に変更し、肝転移は消失し、原発巣も縮小しています。
貧血は改善し、診断から2年間、体重の減少なく元気に通院治療されています。
小腸癌
腸閉塞で発症し、素早く診断したのち、原発巣を切除しました。手術では取りきれないリンパ節転移に対して、化学療法を開始しました。途中、がん遺伝子パネル検査で免疫治療が可能と診断されたため、治療法を変更しました。
その後、転移性病変は消失しています。
大腸癌
多発肝転移を伴う結腸癌に対して、化学療法を開始し、病変を制御しました (治療後には血流が乏しくなった肝転移が黒っぽく変化している)。がん遺伝子パネル検査で免疫治療が可能と診断されたため、治療法を変更し、抗がん剤の副作用が軽減しました。
炎症性腸疾患
炎症性腸疾患(Inflammatory Bowel Disease; IBD)は慢性の下痢、腹痛や下血を来す疾患群で狭義では潰瘍性大腸炎(UC)とクローン病(CD)に分類されます。
IBDは遺伝的素因・腸内細菌・食事などの環境因子によって生じる過剰な免疫反応が原因と考えられています。元々は欧米に多い疾患でしたが、日本でも21世紀に入り患者数は増加しており、現在UCは22万人、CDは7万人を超えています。若年者に多く難治であり、完治させることは困難ですが、ここ数年で様々な内科的治療法が加わり、入院や手術を回避し、長期に寛解維持できる症例が増えています。
IBDの診療体制について
現在、当院の消化器内科にはUCとCD合わせて約1000人の患者さんが通院しています。
当院の診療の特徴として、再燃時や経過観察時には負担のない体外式超音波検査やカプセル内視鏡検査を励行していること、必要時には質の高い大腸内視鏡検査やダブルバルーン小腸内視鏡検査を行うことが可能であることも挙げられます。
また、2015年7月よりIBDセンターを設置し、様々な診療科や多職種による連携により、より質の高いIBD診療を提供できる体制を整えています。
IBDの内科的治療について
IBDの原因は不明であり、残念ながら今のところ病気を完全に治癒させる薬はありません。しかし、ここ数年、症状を改善させ (寛解導入)、症状のない落ち着いた状態を保つ (寛解維持) ための内科的治療が充実してきています。
最近は図2にように粘膜治癒の認められた患者さんでは入院の機会や手術を回避する確率が上昇すると報告されており、症状をなくすだけでなく粘膜治癒を目指した治療戦略が推奨されています。
しかし全ての患者さんに生物学的製剤や免疫調節剤を最初から投与することはありません。当院では個々の患者さん毎に有効性と安全性を考慮したバランスの良い治療を提供できるよう心掛けています。
潰瘍性大腸炎の治療
クローン病の治療
IBDの内科的治療法
治療法 | UC | CD |
---|---|---|
栄養療法 | × | ○ |
5-ASA製剤 | ○ | ○ |
副腎皮質ステロイド製剤 | ○ | ○ |
免疫調整薬:アザチオプリン | ○ | ○ |
血球成分除去 (CAP) 療法 | ○ | × |
局所製剤:坐剤、注腸 (5-ASA、ステロイド) | ○ | × |
カルシュニューリン阻害剤:タクロリムス | ○ | × |
抗TNFα抗体製剤:インフリキシマブ、アダリムマブ | ○ | ○ |
抗TNFα抗体製剤:ゴリムマブ | ○ | × |
抗IL-12/23p40抗体製剤:ウステキヌマブ | ○ | ○ |
抗IL-23p19抗体製剤:リサンキツマブ | × | ○ |
抗α4β7インテグリン抗体製剤:ベドリズマブ | ○ | ○ |
JAK阻害剤:トファシチニブ、フィルゴチニブ、ウパダシチニブ | ○ | × |
α4インテグリン阻害剤:カロテグラストメチル | ○ | × |
このように近年IBDに対して使用可能な薬は多岐にわたっており、それぞれに様々な特徴があります。患者様の状態に応じて、最も適した治療薬の選択を行えるように心掛けております。IBDの領域は新規薬剤の開発も目覚ましく、当院では治験や臨床研究も行っており、治療の選択肢が広いのも一つの特徴です。
IBDの外科治療
内科的治療に反応の乏しい難治例や、大量下血、腸管穿孔、癌の合併がみられる症例では外科治療が必要となります。また腸閉塞を繰り返す狭窄例や、ステロイド長期投与による副作用の発現は、相対的な手術適応となります。このような患者さんに対しては、当院消化器外科と連携をしながら診療にあたっています。