肝臓の診療

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診療

肝疾患はさまざまな臓器と密接にネットワークを形成しているため、患者さんの訴えられる症状も多彩です。そのため、疾患だけをみるのではなく、常に患者さん全体を診ることを心がけ、難病や難治癌に対して一丸となって取り組むチーム医療を行っています。

肝炎ウイルスについて

B型肝炎、C型肝炎とは、B型・C型肝炎ウイルス(HBV・HCV)の感染により肝臓に炎症が起きて肝臓の細胞が破壊されている状態です。自覚症状がないまま進行し、肝硬変や肝細胞癌の発病につながる危険があるため、感染の早期発見と早期治療が重要です。

当院は肝疾患連携拠点病院であり、肝疾患相談室を設置しており、医療従事者や地域のみなさまを対象とした研修会・講演会の開催や肝疾患に関する相談支援に力を入れております。

HBV・HCVに対する抗ウイルス療法の治療成績は飛躍的に向上しましたが、HBVの完全排除は未だに困難であり、ウイルス増殖制御下でも発癌例を認めます。また、HBV感染およびHBV既往感染者に化学療法や免疫抑制剤を使用すると、HBVの再活性化が起きることがあり注意が必要です。HCV感染においてもウイルス排除後の発癌例を散見することから、HBV排除ならびにHBV・HCV感染に伴う発癌機構の解明に向けた基礎・臨床研究に取り組んでいます。

近年、ウイルス性肝炎に対する治療は目覚ましい発展を遂げていますが、耐性ウイルスの出現、難治例の存在、ウイルス制御・排除後の発癌など依然として多数の課題が残されております。当科では、多数のB型・C型慢性肝疾患患者に対し抗ウイルス療法を導入し、その治療成績を解析することで、抗ウイルス療法の治療効果と関連する宿主側・ウイルス側因子を同定し、個々の患者さんにおける最適な治療の提供を目指しております。また、開発中の新規抗ウイルス薬に関わる治験にも積極的に参加しております。

肝疾患相談室ホームページはこちらから

C型肝炎治療の変遷と治癒率

インターフェロン治療抵抗性とされていたジェノタイプ1型・高ウイルス量症例の治療効果

脂肪肝・アルコール性肝障害について

脂肪肝の原因のほとんどは過食と多量飲酒ですが、糖尿病・ステロイド剤の服用・栄養障害による代謝異常なども原因になります。中性脂肪は腸間膜(内臓脂肪)や皮下脂肪に蓄えられる他に肝臓にも貯蔵されますが、肝細胞の30%以上に中性脂肪がたまると脂肪肝と診断されます。
脂肪肝の多くはメタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)を合併しており、動脈硬化の原因になる脂質異常症や糖尿病を合併する人も少なくありません。

脂肪肝の初期にはほとんど症状はありませんが、やがて肝機能障害、肝炎を起こし肝硬変や肝細胞癌に進行することもあり、近年、非アルコール性脂肪性肝疾患やアルコール性肝障害に伴う肝発癌例が増加しております。

これらの肝疾患における病態進展および発癌機構は十分に解明されておりませんので、臨床研究により発癌促進・抑制因子の探索を行うとともに、基礎研究により肝細胞の脂肪化の発癌機構への影響の解明を試みています。

非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)はインスリン抵抗性、2型糖尿病や高脂血症などの生活習慣因子に加えて、酸化ストレス、腸内細菌や歯周病などの多因子が関与する病態です。当科では、内臓肥満、高血圧、脂質異常症、糖尿病などの代謝異常の治療からNAFLD/NASHの治療への応用を行うとともに、新規治療薬開発に関わる治験にも積極的に参加しております。また、Japan Study Group of NAFLD(JSG-NAFLD;大学病院及び一般病院から成るNAFLD研究グループ)に参加し、疫学・臨床研究を行っております。

当科における初発肝癌患者 背景肝疾患の推移

(n=1880 1992年~2015年)

脂肪肝

エコーでは肝実質のエコーレベルは上昇し、右腎のエコーレベルと比較して高エコーであり(肝腎コントラスト)、深部エコーの減衰が見られる。

脂肪性肝炎の病理所見:グリソン鞘の線維性拡大と慢性炎症細胞の軽度の浸潤を認める。小葉内では肝細胞に大滴性ないし泡沫状の脂肪変性を認める。

肝硬変について

肝硬変は慢性肝炎や肝障害が徐々に進行して肝細胞が壊れ、壊れた部分を補うように肝臓内に線維性組織が増えて肝臓が硬くなった状態です。原因としてはC型肝炎やB型肝炎といった肝炎ウイルス、脂肪肝、アルコール性肝障害などがあります。肝臓に流れ込む血管の一つである門脈は、腸から吸収した栄養を運んだり、脾臓や胃などの臓器から血液を運びます。肝硬変では肝臓のなかを血液がスムーズに流れなくなり、門脈などの血液の流れが滞るため、十分な血液が肝臓に流れなくなり肝機能が低下してしまいます。

肝硬変の合併症

肝硬変には身体の症状がない「代償期」と症状が現れる「非代償期」があります。非代償期になると、黄疸や腹水・浮腫、食道・胃静脈瘤の破裂(吐血)、肝性脳症などの合併症が現れます。肝硬変合併症に対する治療も必要ですが、肝硬変へ進行させない、非代償期に進行させないことが重要です。

腹水

肝硬変では、血液中のタンパク質の一つであるアルブミンをつくる機能が低下します。アルブミンは血管内に水分を保持する働きがあり、アルブミンが少なくなると血管外に水分が漏れ出てしまうため腹水が貯留します。

肝性脳症

腸内細菌から発生する有害なアンモニアは、肝臓で無害な成分に分解されます。ところが、肝硬変ではアンモニアなどの有害な物質が分解されないまま全身に流れ出します。すると、脳の機能低下を起こし、判断力や思考力の低下、意識障害や昏睡などを引き起こします。この症状を肝性脳症といいます。

食道・胃静脈瘤

門脈は肝臓に流入する太い血管ですが、肝硬変では門脈圧が高まるため(門脈圧亢進症)本来肝臓に流れるべき大量の血液が食道や胃の細い血管に迂回します。これらの血管はこぶ状に腫れて食道や胃の中に膨れだし、食道静脈瘤や胃静脈瘤を形成します。

食道静脈瘤

食道静脈瘤

胃静脈瘤

食道静脈瘤に対する内視鏡治療

内視鏡的静脈瘤結紮術( Endoscopic variceal ligation:EVL )

EVLは隆起し破綻しそうな静脈瘤を結紮する方法です。

内視鏡的静脈瘤硬化療法( Endoscopic injection sclerotherapy:EIS )

EISは静脈瘤内に薬剤を注入することにより静脈瘤から供血路まで広範に血栓を形成することで血行遮断を行う方法です。

治療前

内視鏡的静脈瘤硬化術(EIS)

治療後

肝硬変の栄養療法と合併症対策

肝硬変患者に対する適切な栄養・運動療法は、予後を改善させる上で非常に重要です。当科では、糖尿病内科、消化器外科、リハビリテーション科、栄養管理部、看護部、薬剤部と共同で、Metabolic Care Unit(MCU)というチームを立ち上げ、腹水、肝性脳症、糖代謝異常のコントロールやサルコペニア対策を含めた総合的な栄養管理に取り組んでおります。また、MCUで得られた臨床データをもとに、肝硬変の長期的な治療成績の向上を目指した臨床研究を行っております。
肝硬変患者では、出血やQOL低下の原因となる食道胃静脈瘤、シャント脳症、門脈血栓症などを合併する場合があります。当科では、これらの合併症に対して消化器外科、放射線科とも連携し治療を行っています。

MCU(Metabolic Care Unit)について

当院では栄養サポートチームの1つであるMCU(Metabolic Care Unit)を設立し、肝疾患患者への治療介入に力を入れています。

MCUは当院独自の栄養サポートチームの一つであり、肝疾患・糖尿病・肥満患者の栄養・運動療法に特化し、医師・栄養士主導で活動しています。
患者さまの希望に寄り添いながら、それぞれの病態にあった食事内容の提案や、必要な薬剤の内服が継続困難な場合でも患者さまの内服しやすい形態に調整することにより、可能な限り内服が継続できるように提案しています。

肝疾患患者における介入
  • 食事栄養量の設定
  • 栄養指導・運動療法
  • 糖尿病精査(持続血糖測定器の装着など)と対策
  • 肝性脳症、腹水、こむら返り対策など合併症対策
  • 処方の見直し(BCAA製剤、Zn、エルカルチンなど)
  • サルコぺニア対策(BIA法による体組成測定、握力測定、運動療法など)

肝細胞癌について

肝臓癌は再発を繰り返す難治癌であり、進行癌で発見されることも少なくありません。近年、進行肝癌に対し、種々の分子標的治療薬による治療や免疫療法が行われるようになり、治療効果は向上していますが、未だ多くの難治例が存在しています。肝癌に対する治療効果向上を目指し、基礎・臨床研究に取り組んでいます。

進行肝細胞癌に対し治療を行い、肝細胞癌は著明に縮小した。

肝癌の治療法は、肝切除、ラジオ波・マイクロ波焼灼療法、カテーテル療法(肝動脈化学塞栓療法、肝動注化学療法)、薬物療法、放射線療法、肝移植など、極めて多岐にわたっております。また、肝癌の長期成績向上においては、ウイルス性肝炎や肝硬変などの背景となる肝疾患に対する緻密な治療を行うことも極めて重要です。当科では、長期的な視野に立って、最善の治療を選択するために、あらゆる治療選択肢を呈示させていただき、内科、外科、放射線科との緊密な連携のもと、肝癌に対する先進的で集学的な治療を実践しています。さらに、肝癌に対する新規治療法の開発を目指した多くの多施設共同臨床試験や治験にも参加しています。

肝疾患相談室について

広島大学病院は「肝疾患診療連携拠点病院」に指定されており、肝疾患相談室を開設しています。
肝疾患についての市民公開講座や肝臓病教室の開催の他、肝疾患について、患者さまやそのご家族等からの相談に対応しています。

年間検査・治療実績(2021年度)

B型・C型肝炎ウイルスに対する抗ウイルス療法
350件
肝動脈化学塞栓術
130件
薬物療法(分子標的薬治療)
116件(うち、アテゾリズマブ・ベバシズマブ併用療法:80件)
マイクロ波凝固療法
20件
静脈瘤治療(EVL、EIS、BRTO)
77件
MCUによる肝硬変・栄養・代謝評価
840件

肝細胞癌に対するエコー下マイクロ波凝固療法

食道静脈瘤に対する内視鏡治療

治療前(予防例、F2RC1)

治療後(F1RC0)