研究
研究
肝癌患者の長期予後改善を目指した集学的治療の取り組み
肝細胞癌に対するデュルバルマブ+トレメリムマブ併用療法において、治療効果判定に腫瘍マーカーが有用
肝細胞癌に対するデュルバルマブ+トレメリムマブ併用療法において、AFPやDCPなどの腫瘍マーカーの早期変化が治療効果の予測に有用であることを明らかにしました。
特に治療開始4週後の腫瘍マーカーの40%以上の低下は、高い治療奏効率と関連しており、画像評価が困難なケースでの新たな判断指標となる可能性があります。

引用文献
Uchikawa S, Kawaoka T, Oka S, et al. Significance of changes in tumor markers in patients treated with durvalumab plus tremelimumab combination therapy as a surrogate marker for tumor response to unresectable hepatocellular carcinoma. Hepatol Res. 2024 Aug 17.
肝癌の治療法は、肝切除、ラジオ波・マイクロ波焼灼療法、カテーテル療法(肝動脈化学塞栓療法、肝動注化学療法)、薬物療法、放射線療法、肝移植など、極めて多岐にわたっております。また、肝癌の長期成績向上においては、ウイルス性肝炎や肝硬変などの背景となる肝疾患に対する緻密な治療を行うことも極めて重要です。当科では、長期的な視野に立って、最善の治療を選択するために、あらゆる治療選択肢を呈示させていただき、内科、外科、放射線科との緊密な連携のもと、肝癌に対する先進的で集学的な治療を実践しています。さらに、肝癌に対する新規治療法の開発を目指した多くの多施設共同臨床試験や治験にも参加しています。
1st lineレンバチニブと2nd lineアテゾリズマブ/ベバシズマブ不応例に対するレンバチニブ re-charenge

本論文では、1st lineのレンバチニブ(LEN)と2nd lineのアテゾリズマブ/ベバシズマブ不応例に対して、LEN re-charengeとそれに続くTACE(肝動脈化学塞栓療法)で完全奏効を得られた進行肝細胞癌症例について報告をしました。
切除不能肝細胞癌患者に対するアテゾリズマブ+ベバシズマブ治療の早期腫瘍効果と安全性


PRを得た症例では治療開始3週、6週後のAFP ratioが有意に減少し、PDと判断された症例では有意に増加した。一方、DCP ratioは、SDまたはPD症例において治療開始6週に有意に増加した。
※AFP比は次の式で算出した.3週後のAFP比=(3週後のAFP値)/(投与前のAFP値),6週後のAFP比=(6週後のAFP値)/(投与前のAFP値).DCP比も同様に算出した。治療前、3週後、6週後の腫瘍マーカーが正常範囲にある場合、比率は1として計算した。

アテゾリズマブ+ベバシズマブ併用療法は、2020年9月に肝細胞癌に対する初の免疫チェックポイント阻害剤を併用した治療法として承認された治療法です。本研究では、アテゾリズマブ+ベバシズマブの早期抗腫瘍効果と安全性について検討しました。
血清AFPの低下は,アテゾリズマブ+ベバシズマブの早期抗腫瘍効果を反映している可能性が示唆されました。また、有害事象や肝予備能の変化についても調査し、本治療法の安全性も確認されました。
引用文献
Kosaka Y, Kawaoka T, Aikata H. A Case of Successful Lenvatinib Re-challenge following Atezolizumab Plus Bevacizumab Combination Therapy Failure for Unresectable Hepatocellular Carcinoma. Intern Med. 2022 Nov 2.
Ando Y, Kawaoka T, Aikata H. Early Tumor Response and Safety of Atezolizumab Plus Bevacizumab for Patients with Unresectable Hepatocellular Carcinoma in Real-World Practice. Cancers. 2021; 13(16):3958.
ヒトゲノム情報を応用した新規の肝疾患診断法・治療法の開発
個々人にとって最適な肝炎・肝癌の治療法選択ができるようなシステムを作るために、「ヒトゲノム」の個人差や、そこに異常が生じた「癌ゲノム」の研究を行っております。これらのゲノム情報を活用することにより、新たな診断法や治療法の開発を目指します。
また、肝細胞癌や慢性肝疾患の患者さんの組織や血液といった生体サンプルを用いて、遺伝子発現、代謝産物、血中蛋白質、遺伝子多型などの網羅的解析を行っています。最近の研究成果をいくつかご紹介いたします。
非ウイルス性肝がんの発症メカニズムに「炎症」と「老化」という異なる経路が存在することを解明
ウイルス感染(HBV・HCV)以外を原因とする肝がん(非ウイルス性肝がん)の患者が近年増加していますが、その発症メカニズムは未だ明確ではありません。本研究では、非ウイルス性肝がん患者の肝組織を対象に、遺伝子発現解析(RNA-Seq)と代謝物プロファイリング(メタボローム解析)を組み合わせることで、肝がんの背景にある分子異常を明らかにしました。その結果、肝がんを発症した患者の肝臓では、脂肪酸やアシルカルニチンの蓄積が見られ、ミトコンドリアのエネルギー代謝が低下していることが分かりました。また、代謝や遺伝子発現のパターンに基づく解析から、患者は大きく2つのグループに分類されました。
1つは、炎症が主な特徴である「炎症型」です。このグループでは、NF-κBシグナルや上皮間葉転換(EMT)といった、がん進展に関わる経路が活性化しており、組織学的にも免疫細胞の浸潤が顕著でした。慢性炎症ががんの発症に関与している可能性が高いと考えられます。
もう1つは、加齢が主な背景にある「老化型」です。こちらのグループでは炎症は軽度でしたが、性ホルモン関連代謝物(DHEAS)や、細胞膜の安定性に関わるホスファチジルコリン合成の低下が顕著に見られました。これらの物質は肝細胞のストレス応答や腫瘍抑制に重要であり、その減少が発がんを促進する一因と考えられます。
これらの成果は、非ウイルス性肝がんの予防や治療において、患者ごとの分子病態に応じたアプローチの必要性を示しています。例えば、「炎症型」には抗炎症治療、「老化型」にはホルモンや代謝補充療法といった個別化戦略が将来的に期待されます。


RNA-seqによる各サブタイプのシグナル解析
サブタイプ1はNF-κBシグナルや上皮間葉転換に関する経路が活性化していました。サブタイプ2は代謝異常に関連する複数のシグナルに異常が確認されました。
引用文献
Nakahara H, Ono A, Shirane Y, Miura R, Fujii Y, Oka S , et al. Multiomics Analysis of Liver Molecular Dysregulation Leading to Nonviral-Related Hepatocellular Carcinoma Development. J Proteome Res. 2025 Mar 7;24(3):1102-1117.
血清IL-6値が切除不能肝細胞癌に対する免疫療法の効果予測に有用である
切除が難しい肝細胞癌に対する免疫療法のアテゾリズマブ+ベバシズマブ併用療法(Atezo+Bev)は、現在の標準治療として広く用いられています。しかし、この治療がすべての患者に効果を示すわけではなく、どのような症例で治療効果が得られるか予測できれば、治療戦略を考える上で非常に役立ちます。本研究では、治療開始前に保存された血清を用いて、17種類のサイトカインの濃度を測定し、治療効果と関連するバイオマーカーの探索を行いました。その結果、血清中のIL-6値が高い患者では、Atezo+Bev の治療効果が低い傾向にあることを発見しました。
さらに、治療前の肝腫瘍生検組織を用いた解析により、血清IL-6高値の患者では、腫瘍内に免疫抑制に関与する腫瘍随伴マクロファージが、腫瘍を攻撃するCD8陽性T細胞に比べ、相対的に多いという、免疫が働きにくい腫瘍微小環境(TME)が形成されていることがわかりました。
これらの知見から、血清IL-6の測定により、免疫療法の効果が期待できるかどうかを事前に評価できる可能性が示されました。今後は、血清IL-6を一つの指標として、患者ごとの最適な薬物療法を選択するための判断材料になることが期待されます。

血清IL-6濃度が高い症例ほど腫瘍内のM2型マクロファージ(CD163陽性細胞)の浸潤がCD8陽性T細胞(CD8陽性細胞)の浸潤と比べ、相対的に強くなることで、腫瘍に対する免疫力は抑制され、Atezo+Bevの治療効果は低下すると考えられます。
Atezo+Bev治療における血清IL-6の高低別の無増悪生存期間と全生存期間の比較

無増悪生存期間(左図)、全生存期間(右図)いずれも血清IL-6高値の症例では低値の症例より生存期間が有意に低下しています。
血清IL-6と治療効果別に見た肝腫瘍組織内浸潤CD8・CD163陽性細胞数の比較

血清IL-6高値となると抗腫瘍効果を有するCD8陽性T細胞浸潤は低下し、腫瘍促進作用を有する腫瘍随伴マクロファージの一つであるM2型マクロファージ(CD163陽性細胞)浸潤は亢進します。CD8/CD163陽性細胞数比で評価するとその傾向はより明らかとなります。更に治療効果別で評価すると、治療効果が得られなかった症例でCD8/CD163陽性細胞数比は有意に低下します。
引用文献
Miura R, Ono A, Nakahara H, Shirane Y, Fujii Y, Oka S, et al. Serum IL-6 concentration is a useful biomarker to predict the efficacy of atezolizumab plus bevacizumab in patients with hepatocellular carcinoma. J Gastroenterol. 2025 Mar;60(3):328-339.

トランスクリプトーム解析および免疫組織学的検討から、類洞様血管構造(vessels that encapsulated tumor clusters; VETC)を有する肝細胞癌では、IFNパスウェイやTCRパスウェイなど、免疫応答に関わる経路の活性が抑制されていることが分かりました。一方で、分子標的薬レンバチニブの治療標的であるFGFR4の発現が亢進していることも分かりました。VETCでは、免疫チェックポイント阻害剤の恩恵を受けにくく、レンバチニブの恩恵を受けやすい可能性が示唆されました。
引用文献
Zhang P, Ono A, Aikata H, et al. The presence of vessels encapsulating tumor clusters is associated with an immunosuppressive tumor microenvironment in hepatocellular carcinoma. Int J Cancer. 2022 Dec 15;151(12):2278-2290.
培養細胞および動物モデルを用いたウイルス性肝炎の病態解明および新規治療法開発
肝炎ウイルスの感染・増殖が可能な培養細胞および動物モデルを用いて、ウイルス性肝炎の病態解明および新規治療法開発を行っております。マウスの肝臓をヒト肝細胞に置換させたヒト肝細胞キメラマウスは、広島大学から発信された肝炎ウイルス感染マウスであり、このマウスモデル用いて、既存の抗ウイルス薬に抵抗性を示す肝炎ウイルスへの有効な治療法開発を目指して研究を行っております。

HBV感染に伴うヒト肝細胞内遺伝子発現変化の解析

HBV感染後、小胞体内に蓄積したHBs蛋白により小胞体ストレスが惹起され、IL-8産生が亢進する。

HBV感染に伴うIL8発現亢進により、細胞内のインターフェロン反応性が減弱

IL8発現亢進細胞では、インターフェロン添加後にインターフェロン誘導遺伝子の一つであるMxA発現誘導が減弱した。→HBVのインターフェロン治療抵抗性に関連。
HBx蛋白がNF-κB pathwayを介してTRAIL-R3の転写を活性化する。

TRAIL-R3発現亢進により、TRAIL誘導apoptosisを抑制する。

引用文献
Tsuge M, et al. Endoplasmic reticulum-mediated induction of interleukin-8 occurs by hepatitis B virus infection and contributes to suppression of interferon responsiveness in human hepatocytes. Virology. 2018 Dec;525:48-61.
Suehiro Y, Tsuge M, et al. HBV upregulates TRAIL-R3 expression in hepatocytes for escaping both cell apoptosis and suppression of their replication by TRAIL. J Infect Dis. 2022 Feb 28
ウイルス性肝炎患者における治療効果や肝発癌に関わる因子の探索
B 型・C 型肝炎の抗ウイルス療法は劇的に進歩したものの、治療後も肝細胞癌(HCC)を発症する患者が一定数存在します。私達の研究室では、ウイルス学的バイオマーカーを組み込んだ治療効果予測モデル・肝発癌リスク評価や、抗ウイルス療法の治療効果と関連する宿主側・ウイルス側因子を同定し、個々の患者さんにおける最適な治療の提供を目指しています。

引用文献
Kosaka M, Fujino H, Tsuge M, Oka S, et al. The Hepatitis B Virus PreS1/HBsAg Ratio Is a Predictive Marker for the Occurrence of Hepatocellular Carcinoma. Livers. 2024; 4(3):364-376.
脂肪性肝疾患の臨床像に関する研究と新規治療法の探索
脂肪性肝疾患は、世界人口の3人に1人が罹患する病気であり、日本でも肝硬変や肝がんの主要な原因として知られています。近年提唱された代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)は,従来の非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)に代わる疾患概念であり、肥満や糖尿病といった代謝機能障害の合併や飲酒に焦点が当てられています。
当院では、数多くいらっしゃるMASLD患者さんの中でもどのような特徴をもつ方々が肝硬変や肝がんを発症するリスクが高いのか、研究を行っています。また、いまだ確立されていない脂肪肝炎の有効な治療法を追求するため、診療科を超えた連携を駆使した取り組みも行っています。
代謝異常の合併数が多い集団は少ない集団に比べて肝がんが再発しやすい

肝線維化非進行症例における肝癌術後累積再発
引用文献
Johira Y, Nakahara T, Oka S, et al. Impact of MAFLD criteria on postoperative recurrence of non-B, non-C HCC. Eur J Gastroenterol Hepatol. 2024 Apr 1;36(4):430-437.


診療・研究に励み、国内外に研究成果を発信するとともに学生・若手医師の指導にも力を入れています。
