臨床研究
膵癌早期診断における臨床研究
我々は、広島県内の主要施設において早期診断された膵癌の症例集積を行い、その臨床的特徴を検討した。血液検査では膵酵素異常症を約50%の頻度で認め、腫瘍マーカー (CA19-9) の上昇を27%に認めた。画像的特徴としては、stage 0膵癌においては、膵管の狭窄や拡張などの主膵管の異常所見であった。これらの所見を拾い上げる有用な検査はMRI、EUSであった。stage IA膵癌においては腫瘤を認め、腫の描出能はEUSが最も有用な検査であった。早期診断された膵癌の予後は5年生存率がstage 0では87%でstage IAで71%と良好であり、早期発見することが膵癌の予後改善に寄与すると考えられた。またこれらの臨床的特徴からMRIやEUSを用いた新しい診断アルゴリズムについて報告した。
引用文献
Ikemoto J, Serikawa M, Ishi Y, Chayama K, et al.Clinical Analysis of Early-stage Pancreatic Cancer and Proposal for New Diangnostic Algorithm: A Multicenter Observation Study. Diagnostic. 2021 Feb 12; 11(2): 287.
膵臓がん Hi-PEACEプロジェクト
Hiroshima Pancreas cancer Early diagnosis with Collaboration and Examination(Hi-PEACE)
本プロジェクトは膵癌早期診断例、特にStage 0の診断率向上により広島県全体の膵癌の生存率上昇を目的とし、さらにはStage 0症例の増加によりその病態解明を目指すものである。広島県内の病診連携を強化することにより、膵癌の危険因子や軽微な画像所見から膵癌を拾い上げる取り組みです。二次医療圏ごとに医師会と連携し、早期膵癌の可能性のある症例を拾い上げ、膵癌の早期診断を行う試みです。
膵胆道疾患における経口膵・胆道鏡を用いた研究
我々は、IgG4関連硬化性胆管炎 (IgG4-SC) と肝外胆管癌 (ECC) の狭窄部の経口胆道鏡 (POCS) 所見を比較しその特徴を検討した。IgG4-SCのPOCS所見は、不整を伴わないsmoothな粘膜、口径不同のない拡張した血管、易出血性を認めないものが特徴である。これらのPOCS所見がIgG4-SCとECCの鑑別に有用であることを報告した。
また、経口胆道鏡を用いた胆管癌の進展度診断や経口膵管鏡を用いたIPMNの進展度診断などの研究を行っている。
引用文献
Ishi Y, Serikawa M, Chyama K, et al. Usefulness of peroral cholangioscopy in the differential diagnosis of IgG4-related sclerosing cholangitis and extrahepatic cholangiocarcinoma: single-center retrospective study. BMC Gastroenterology. 2020 ; 20: 287.
膵腫瘍に対する経鼻膵管ドレナージチューブ (ENPD) を用いた研究
我々は、膵癌の腫瘍径、部位別の診断能についての研究を行い、腫瘍径10mm未満、体部病変において膵液細胞診の有用性を報告している。現在も膵癌の病理学的診断能向上の目的でENPDを用いた様々な研究を行っています。
引用文献
Kawamura R, Ishi Y, Serikawa M, Aikata H, et al. Optimal indication of endoscopic retrograde pancreatography-based cytology in the preoperative pathological diagnosis of pancreatic ductal adenocarcinoma. Pacreatology. 2022 Apr; 22(3):414-420.
悪性胆道狭窄に対するステントを用いた臨床研究
悪性腫瘍に対するステントの様々な研究を行っています。
これまで我々は、肝門部領域胆管癌の術前胆道ドレナージにおいて、従来型のstentやENBDとinside stentを比較するとre-interventionの割合がinside stentの方が有意に頻度が低く有用であることを報告した。
引用文献
Nakamura S, Ishii Y, Serikawa M, Chayama K, et al. Utility of inside stent as a preoperative biliary drainage method for patients with malignant perihilar biliary stricture. J Hepatobiliary Pancreat Sci. 2021 Oct;28(10): 864-873.
膵頭部癌における術前胆道ドレナージとしてのMetal stentとPlastic stentを比較するとstentに起因する合併症の頻度や術前治療の延期の頻度がMetal stentの方が有意に低下し、また周術期合併症の頻度も従来のPlastic stentを同等であり、術前胆道ドレナージとしてのMetal stentの有用性について報告した。
引用文献
Tsuboi T, Sasaki T, serikawa M, Ishii Y, Chayama K, et al. Preoperative Biliary Drainage in Case of Borderline Resectable Pancreatic Cancer Treated with Neoadjuvant Chemotherapy and Surgery. Gastroenterol Res Pract. 2016; 2016: 7968201
その他の臨床研究
- 膵石のCT値によるESWLの治療成績
- 膵石に対するESWL併用内視鏡治療による膵内外分泌機能への影響
- 内視鏡を用いた遠位胆管癌の病理組織学的診断能と進展範囲診断能
- 術後再建腸管の肝内結石に対する治療成績
- ERCP関連手技による限局性胆管狭窄の良悪性鑑別診断
- 限局性膵管異常を対象とした前向き観察研究
- 悪性胆道狭窄症例における減黄効果の検討
- 胆膵領域処置における医療被曝低減の工夫
- BRCA 遺伝学的検査に関するデータベース作成
多施設臨床研究
- 広島大学病院関連施設における膵癌早期診断症例の臨床病理学的検討
- 多施設共同による自己免疫性膵炎の実態調査
- 膵腺房細胞癌の実態調査-多施設共同研究-
- 膵癌術前胆道ドレナージにおける金属ステントの有用性と安全性に関する多施設共同無作為化比較試験